「今月も赤字だ…キャッシュフローが…」
「このままじゃ来月の給料が払えないかも…」
あなたも経営者として、こんな悩みを抱えていませんか?
経営者たるもの労働基準法により賃金の支払い義務はあるものの、資金繰りが思うようにいかないことも多々あります。
では、法律で決められた義務を果たさないとどうなるのでしょうか?
この記事では、社員の給料を払えないとどうなるのか?について解説し、あなたの会社に合った解決策をお伝えします。
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給料の支払いには「原則」がある
労働基準法第24条では、給料の支払いについて5つの原則が定められています。
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 定期払の原則
特に4について、お給料は月に1回以上、しかも「25日」「月末」といった一定の期日を定めて支払わなければならないと決められています。
労働基準法第24条においては、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないとされています。
「今月は払えないから、来月にまとめて2カ月分を払うよ」とはいうわけにはいかないのです。
社員の給料を払えないとどうなる?
では、払えないとどうなるのか?を見ていきましょう!
「労働基準法違反」で書類送検される
給料を払わないのは「犯罪」です。
産業別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合は、最低賃金法の罰則は適用されず、労働基準法の賃金の全額払違反の罰則(罰金の上限額 30 万円)が適用されます(労働基準法第 120 条)。
引用:厚生労働省 香川労働局「罰則について」
労働基準法では、「会社は社員に最低賃金額以上の給料を支払わなければならない」と定められています。
それが守られず社員の生活を脅かすことがあれば、労働基準監督官は会社に立ち入り、帳簿などを検査し、適切な措置をとるよう求めることができるとしています。
罰則は30万円以下の罰金刑です。
実際に書類送検されたケース
2014年に神戸の会社経営者が従業員の給料10カ月分・370万円以上を支払わなかったとして、神戸地検に書類送検されたケースがあります。
「売り上げが厳しくて払えなかった」という理由で、書類送検される前年には事実上の倒産状態だったということですが、社員の給料については「倒産状態だから払えなかった」という言い訳が通用しないのです。
また、2018年には成人式用の振袖販売・レンタル業をしていた「はれのひ」が同じく書類送検されています。
横浜南労働基準監督署は12日、最低賃金法違反(賃金不払い)の疑いで、今年の成人の日に晴れ着トラブルを起こした振り袖の販売・レンタル業「はれのひ」(横浜市中区、破産)と、同社元社長(56)=詐欺罪で起訴=を書類送検した。
「はれのひ」は振袖のレンタル・販売を直前まで続けていたのにも関わらず成人の日直前に全店舗を閉鎖し、大きなニュースにもなりましたよね。
このケースでは事件が起きる前にも数回、従業員からの相談を受けて労働基準監督署が立ち入り調査をしています。
払えない理由があったとしても、追及の手からは逃れられないと考えたほうがいいでしょう。
立ち入りの拒否で罰金になる
書類送検される前には立ち入り検査がありますが、もしあなたが立ち入りを拒否したらどうなると思いますか?
実は、検査を拒否したり妨害したり、質問に対して嘘をついたりしても犯罪になります。
この場合、30万円以下の罰金が科せられますので注意が必要です。
残業代はさらに金額が増える
要注意なのは、給料だけでなく残業代を不払いした場合です。
最近では「サービス残業」をさせないよう企業も対応しているようですが、残業代の不払いは労働基準法第119条1項1号により、6カ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金となります。
時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合、所定の割増賃金(残業代)を支払わないと労働基準法第37条1項違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処せられるおそれがあります(労働基準法第119条1号)。
引用元:アディーレ法律事務所「労働基準法とは?違反となる20のケースと押さえておきたいポイントを解説」
また、社員から不払いの残業代を請求された場合、残業代にプラスして「付加金」を同額支払わなければならない可能性もあります。
つまり、残業代の「倍返し」です。
社員から訴訟される
未払いが3カ月、半年ともなれば社員の方も生活がかかっています。
この後でお伝えするような解決策をあなたが講じないとすれば、訴訟を起こされる可能性も高くなります。
最初は会社に対して給料を払うよう「内容証明」が送られてくるでしょう。
それでも払わないようなら、次に裁判所から「訴状」が送られてきます。
- 140万以下の未払い・・・簡易裁判所
- 140万円を超える未払い・・・地方裁判所
裁判になったら時間を作って出廷しなければなりません。
仮にあなたが支払えない理由をきちんと説明し、その証拠として帳簿などを見せたとしても、給料の未払いの場合、勝ち目はほぼありません。
そうであるなら、訴訟を起こされる前にきちんと対応したほうが賢明です。
社員の給料が払えない時の解決策4選
あなたが訴訟を起こされたり、書類送検されたりしないよう解決策を見ていきましょう。
会社がどの程度の危機を迎えているかによっても解決策は変わってきます。
猶予があるのであれば、「経費の見直し」や「不動産など資産の売却」の検討も解決策としてありますが、ここではかなり切羽詰まった状態での解決策をお伝えします。
1.役員報酬を減額してもらう
役員報酬は、キャッシュフローが回らずに不渡りになってしまう…といった状況のときであっても、社長なり役員が自分のお金を回せるよう高めに設定することが多々あります。
基準としては、社員の平均給与の3倍が妥当だと言われています。
しかし、会社経営状況が悪化しているのに役員への報酬だけ高額にしておく理由はありません。
まずは役員報酬をカットすべきでしょう。
2.銀行に借入・延滞の相談をする
銀行からの借入があるのであれば返済を待ってもらう、または新たな借り入れの相談をする方法もあります。
「銀行に相談に行ったら信用がなくなるのでは?」
「経営が苦しいのだから貸してくれるわけがない」
あなたも銀行に対して、こんな風に思っているのではありませんか?
実はこうした相談には、銀行は意外と柔軟に対応してくれます。
取引先に倒産されては困るからです。
あなたに事業を継続していく意思があるのであれば、あなたの会社が信用されていないか、絶望的な状況にない限り「当面は利息だけの支払いでOKですよ」といった提案もしてもらえる可能性があります。
ただし、延滞してから相談するのではなく、事前に相談すべきです。
それにより、銀行側は、あなたのことを「誠実な人物」として評価してくれます。
何の問題もなく返済しているときよりも、こういうときにこそあなたの人柄を銀行に知ってもらうチャンスだとも捉えられます。
3.社員に謝罪し状況を説明する
「給料を払う予定はしていたものの、売掛先が倒産して当てにしていたお金が入らなくなった…」など、急遽払えなくなるケースもあるでしょう。
そのような場合、まずは役員や顧問にも話を通したうえで、社員に事情を説明しましょう。
その際、倒産が決定しているならば別ですが、事業を継続していくのであれば
- なぜ今回、給料が払えなくなったのか?(理由)
- いつなら払えるのか?(時期の目安)
この2点をしっかりと説明できるようにしておいでください。
今後の方針を何も示さずに、ただ「待ってくれ。必ず払う」では社員からの信頼は崩れてしまいます。
4.給料の減額を検討する
「今月」「来月」というスパンではなく、「会社の業績はしばらく回復の見込みなし」と経営者陣が判断したのであれば、社員の方々の給料を「減額」するというのもひとつの方法として考えてもいいのかもしれません。
ベストな選択かどうかは別として、無理をして倒産しては元も子もありません。それでは返って社員たちを路頭に迷わせることになりかねません。
だからと言って、会社側が一方的に減額をすることは法律で認められていません。
- どうして下げるのか?(理由)
- いくら下げるのか?(金額)
- 元に戻る可能性はあるのか?(見通し)
といった内容をきちんと説明する場を設けたり、個別に伝えたりすることが必要です。
また、同意を得たからと金額をいくらでも下げられるわけではありません。
労働基準法91条では、給料の減額について「1日の平均賃金の半額、総額が十分の一を超えてはならない」と定めています。
ただし、この減給規定は、社員が会社に損害を与えたりした場合の処罰に対するものです。
処罰であっても限度額が給料の1割となっていますので、会社の経営悪化という理由で減額すると場合、それよりも多いというわけにはいきません。
1割が限度であろうという判決もあります。
社員のリストラも視野に入れておく
減額だけではどうにも太刀打ちできない場合、経営者として苦渋の選択となりますが「リストラ(整理解雇)」も視野に入れておきましょう。
リストラするには以下の「整理解雇四要件」に該当するかが重要です。
- 人員削減が本当に必要なのか
- 人員削減の手段として整理解雇が適しているのか
- 解雇者の選定方法が妥当なのか
- 解雇手続きが妥当なのか
整理解雇についてはこちらのサイトを参考にしてみてください。
5.取引先と支払いについて交渉する
事業の内容にもよりますが、仕入先、外注先に事情を話し支払いのタイミングを延ばしてもらえないか交渉をする方法もあります。
また、売掛先に早めに入金してもらえないかの相談をしてみるのもいいでしょう。
ただし、先方も経営が苦しい場合もあります。
「支払いを遅らせてほしい」といったお願いはできるだけ早めに連絡するのがルールです。
経営者であれば、事前に予測できるようであれば「来月、支払いの件で相談させてもらうかもしれません」といった話をしておくべきです。
相手側も経営が長ければ、いくつも危機を乗り越えてきていることでしょうから、あなたの会社の苦しい状況は理解してくれるはずです。
お金の話だからと遠慮して倒産ということにでもなれば、かえって取引先にも迷惑をかけることになりますので、ここは躊躇せず相談してみてください。
6.最低限の生活費を払う
社員の中には、預貯金がまったくない人もいるはずです。
「全額待ってくれ!」とは言えませんので、社員にヒアリングしたうえで最低限必要な生活費だけでも払えるようにするという方法もあります。
ただし、社員との信頼関係がなければ、こうした話し合いは難しくなります。
7.未払賃金立替制度を利用する
もしもあなたの会社が「倒産するしかない」という状況であれば、独立行政法人労働者健康安全機構の「未払賃金立替制度」を利用する方法もあります。
未払い賃金立替制度の利用条件
- 1年以上事業を行っていた
- 事実上の倒産状態、あるいは法律上の倒産手続きを行った
立替てくれる金額は、未払賃金額の8割です。
ただし、社員の退職時の年齢に応じて88~296万円という限度額が設けられています。
立替払される金額は、未払賃金総額の100分の80の額です。ただし、立替払の対象となる未払賃金総額には、退職日の年齢による限度額があり、その限度額を超えるときは、立替払される金額は限度額の100分の80となります。
引用元:独立行政法人 労働者健康安全機構「未払い賃金の立替払事業」
社員の給料が払えない時は「ファクタリング」
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まとめ:まずは役員報酬から見直しを
「払いたいけど払えないんだから仕方がないだろう」
あなたの苦しい気持ちやしんどい状況はお察ししますが、こんな考え方は世間では通用しません。
経営者として社員を雇った以上、生活を保障するのは当然の義務です。
労働基準法でも賃金支払い義務が明確になっており、たとえ東日本大震災のような地震が起きて工場や事務所が崩壊したとしても、経営者は必ず給料を支払う義務があり、それを免れることはできません。
ただし、どうにも立ち行かなくなった場合には「倒産」という方法もやむを得ないのは事実です。
経営者だからと、あなた一人が全責任を背負う必要はありません。
その場合も、要は社員や取引先への「誠意」を示すことが大切です。
もし倒産ということになったのであれば、積極的に「未払賃金立替制度」を利用してください。
この制度で未払い分の給料を受け取ることができた人は2014年度で30,546人にものぼり、その立替総額は118億円にもなっています。
最後まで働いてくれた社員のために、あなたがベストな選択をできるよう願っています。