事業者や経営者にとって退職金が大きな負担になっているケースも少なくありません。
その結果、退職金を払えずに退職者とトラブルになってしまうことも・・・。
退職金を払わないことは違法なのか検証していきます。
この記事の要約
経営が傾き、退職金を支払えなくなってしまった…こんな時はどうすればいいのでしょうか。
会社は、必ず退職金を支払わないといけないわけではありません。
ですが、就業規則で退職金を支払うと記載していた場合、実行しないと従業員から訴えられる可能性があります。
規定していた退職金の額面でなく減らして支払うこともできますが、どれくらい下げていいのでしょうか。また、倒産してしまった場合の退職金についても気になりますよね。
本文では、退職金にまつわる知識をより分かりやすく紹介しています。
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【結論】退職金を払わなくても違法にならない
会社は必ず退職金を支払わなければいけないという訳ではありません。
労働基準法でもそういった記載はありませんので、会社によっては退職金がないケースもあります。
ただ、退職金がないのは稀。
平成28年民間企業の「勤務条件制度等調査」によると、92.6%の会社が退職金を用意していることが明らかになっています。
特に大手企業になれば、9分9厘、退職金があります。
退職金がない会社は小規模な個人運営の会社などが大半です。
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就業規則に退職金の規定があるときは?
おそらくどの会社でも、就業規則の中に退職金に関する記載もあるはずです。
例えば、
- 勤続5年以上で30万、あるいは退職金の10%
- 勤続10年以上で80万、あるいは退職金の30%
- 勤続15年以上で180万、あるいは退職金の40%
- 勤続20年以上で230万、あるいは退職金の70%
といった形です。
他にも適用される従業員の範囲、支払方法、退職金を支給する時期などの記載も行っているはずです。
こういった記載は会社が宣告した証明書になりますので、それを実行しないと従業員から訴えられる可能性があります。
尚、最近では、
「社会情勢、経済状況などの影響により従業員と協議した上で退職金の支給額の変更、改変の可能性がある」
といった一文を記載し、予防線を張っている会社も増えています。
これなら将来的に退職金の変更をしても規定に記載されていることなので、労働基準法には違反していないということになります。
退職金規定は変更できる!
社会の経済状況が悪化するなどの影響で、どうしても退職金を支払うことが困難になることもあるでしょう。
そこで気になるのは、退職金の規定の変更はできるのか?ということ。
会社経営が傾いてしまった場合を例に解説していきたいと思います。
規定を変更した後にやることは?
「創業当初は従業員に退職金を払うつもりだったけど、だんだんと売上も悪化して経営的に苦しくなってきた。当初記載した退職金ではなく、さらに下げられないものか、あるいは無くせないものか」
このように考えている事業者や経営者の方もいるでしょう。
結論から言うと、退職金規定変更は可能です。
ただし規定を変更する上で幾つか確認をしたり、同意を得なければいけないところがあります。
一つ目は調整装置。
例えば退職金の規定を変更してから、新たに入社した社員にはそれを適用するので問題ありません。
しかし、既存の社員は前の退職金規定を理解した上で入社していますから、もし退職金が大幅に減ると「話が違うじゃないか」ということになってしまいます。
上がる分には良いのですが、下がる分には不利益変更の扱いとなるので、従業員にしっかりとした説明が必要です。
例えば、
「資材減少に伴い、仕入れ価格が高騰してしまいました。その結果、会社の利益を圧迫する状況になり、従業員の皆様には大変申し訳ないのですが、退職金規定の変更を制定することをご報告させていただきます。」
このように伝えて、退職金が変わることを伝えて同意を得る必要があります。
労働契約法第10条には、下記のような記載があります。
就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件
の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就
業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働
条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
ちょっとまどろっこしい言い方ですが、要は就業規則を変更することが可能ですよというもの。
経営者が個人的な理由で変更したわけではなく、経済状況などの要因によって合理的な変更と言える時は、退職金規定変更は可能です。
労働者の同意が必要なケース
例えば、退職金の数%だけカットということであれば、全員の同意を得なくても大丈夫という労働契約法の記載があります。
しかしあまりにも不利益幅が大きいと労働者からの同意が必要になってきます。
退職金は10年未満であればせいぜい100万前後といったところですが、定年退職まで働くような状況だと会社によっては1,000万円を超えてくるところもあります。
その1,000万が「やっぱり払いません」となると退職者も話が違うじゃないかということになっちゃいますよね。
そうなると、訴えられてしまう可能性が高いです。
その場合は個別に交渉し、「分割で支払う」、「利益幅を考慮しつつ、継続的に支払う」といった提携が必要になります。
退職金を払わない場合のトラブル事例3選
規定通り退職金をもらえると思っていたのに、もらえなかったら…従業員はどのような行動に出るのでしょうか。
退職金を不払いした時に考えられるトラブル一覧
- 労働センター労働基準監督署に通告される
- 裁判所に訴えられる可能性も
- 一部立て替えて払ってくれるところはあるけど…
労働基準監督署から通知が来るケース
もし会社と従業員との交渉がうまくいかなければ、その従業員は退職金未払いを不服として労働センター労働基準監督署に相談することになるでしょう。
すると労働センター労働基準監督署から会社の方に「退職金を支払う約束をしているんだったら、ちゃんと払いましょうね」といった通告がいきます。
労働センター労働基準監督署は厚生労働省所轄の機関ですから、そこからの申告に従わないと法的トラブルに発展する可能性が高くなってしまいます。
裁判沙汰になったケース
もし労働センター労働基準監督署からの通告に対しても従わないで、退職金未払状態が続いていると、泣き寝入りしない限り、従業員はおそらく簡易裁判所に退職金支払いの申し立てを行うはずです。
こうなると、いよいよ裁判沙汰に。
おそらく就業規則に退職金の記載があれば、会社側に支払い命令の判決結果が出るのは明らかです。
場合によっては「退職金+慰謝料」なども請求されて、さらに多くの支払いを求められる可能性も出てきます。
こうなる前に何とか従業員との話し合いを行って円満に解決したいですね。
退職金の立替払い制度を使うケース
本来なら会社は倒産する際、破産の申告手続きを済ませなければいけません。
しかし、中には夜逃げのような形で姿をくらませる人もいます。
そういったときは会社側が退職金を払わないケースが大半です。
そういった事態に備えて政府は倒産した会社に代わって、未払分の退職金を払う制度があります。(未払賃金の立替払事業)
これは倒産した企業に代わって独立行政法人労働者健康福祉機構というところが払ってくれる制度です。
しかし退職金の全額ではなく、あくまでも一部の立て替えのみとなっているので、その割合が10%や20%かもしれません。
そうなるとやはり従業員は全額退職金をもらえない状態になるので、会社経営者に対して憤りを感じ、訴える可能性も出てくるでしょう。
結果的に未払いで逃げ切るというのは難しくなります。
結論:退職金を払わないと訴えられる可能性大
ここまで退職金の義務、および違法性について紹介しました。
退職金を払うことは義務ではないのですが、ほとんどの会社が退職金を支払っていて、就業規則にも記載しています。
もし退職金の金額を変更したいなら従業員の同意を得る必要があります。
長年勤めた従業員であれば、多少は会社に恩も感じているでしょうから、事情を全く聞き入れないということはないでしょう。
会社の事情も察して、減額などを受け入れるという人が多いはずです。
話し合いを穏便に進めて裁判沙汰にならないように解決したいですね。
また、自己都合退職の場合は退職金を下げられるケースもあるので、もし退職金を払うのが厳しいと分かっているなら、自己都合退職を受け入れることも視野に入れておきましょう。